13


菊は膝の上に幼子となってしまった夫を乗せ、未だにあらゆる角度からカメラやボイスレコーダーを此方に向けるゴースト達を見上げる。
「……ところでギルさん、どうやって此処に?」
ギルベルトは菊からの疑問の声に目を瞬くと「ん?どうやってって…分かんねぇ」と首を傾げた。
「あら?そうなんですか?」
頬に掌を寄せて同じ首を傾げた菊にゴースト達がユラユラと近くに寄って来て何やら胸を張っている。
「ゴーストちゃん達…え?貴方達が説明を?」
菊の声にゴースト達はウンウンと嬉しそうに頭というか体を上下に揺らす。
「…いやいや、なんでいってることわかるんだよ?」
ギルベルトは若干引き攣った顔を前に菊は曖昧に「何となく…ですかね?」と苦笑して見せた。

菊とギルベルトはゴースト達がプラカードに一生懸命説明書きをしている間、ここまでのギルベルトの記憶を辿る事にした。
「きくがきえちまって、そこからおぼえてねぇんだ。なんかこえがきこえてたけど…かすみがかったかんじでよ、はっとしたときにはあのへんたいがいて、ひかりがはじけたとおもったらここにいたんだ」
「声が?……ギルさんが小さくなってしまったのは不思議な空間という事ですね。恐らくですが、何らかの原因で魔力をかなり消耗してし、魔力を備蓄する為に今の幼子の姿に一時的になっている。といった所でしょうね」
「おお…!たしかに、からだおもいし、だるいぜ」
己の小さな掌をニギニギとさせて、ギルベルトは体内にいつもある筈の魔力が少ない事に気づく。
この姿はどうも察知能力が悪いし、ちょっとした移動も出来そうにない。どうにか魔力を元の正常な状態まで溜めたい所だが、今すぐという訳にはいかない。半日はかかるだろうか?と思考を巡らせる。
「…まりょく、たりねぇよな」
ポツリと消沈気味に呟けば、菊がギルベルトの開いたままだった掌をそっと包み込んだ。
「大丈夫ですよ。私の魔力を微力ながら注がせて頂きますし、頼もしいゴーストちゃん達も居ります」
小さく笑む菊にギルベルトはその暖かく柔らかな胸へと顔を埋めた。
「…おれはおまえが、きくがそばにいたらそれでいい」
モゴモゴも小さく呟いたギルベルトに菊は頬を染めてギルベルトの小さな身体を抱き締めた。

そして、騒いでいた化身達が漸く落ち着きを見せ始めていたのと同時にゴースト達がドヤ顔でプラカードを菊達に掲げて見せる。
「ありがとうございます。ご苦労さまでしたね?」
ゴースト達に礼と労いの言葉を贈り、菊は綴られた文字を黙読していく。その傍らではギルベルトが素早く目を通していたが、段々と顔色を青ざめさせ、そして今度は真っ赤にして黙り込むと何か得体の知れない物から隠れるように菊の胸の谷間へと顔を沈めてしまった。
ギルベルトと同じ様に菊は目を丸くした後、歓喜で頬を高揚させ、ギルベルトの柔らかな銀髪に頬を擦り寄せた。

[newpage]

「……漸く落ち着いて話が出来そうだな」
ドイツは眉間の皺を指先で揉みほぐしながら溜息混じりに言った。
そんなドイツの目の前にはホテルの柔らかいラグの上で鎮座する人影がある。
「っつうか、俺様何もしてねえのに酷くね?反抗期かよ…」
腫れた両頬を晒しながら理不尽だと唇を尖らせているのはドイツの兄プロイセン。隣では日本がプロイセンの膝をベシッと叩き「今は黙らっしゃい」と窘めている。その隣ではイギリスが心地悪そうに床を見つめ、そのまた隣ではアメリカとロシアが鼻血や痣の数を言い争いながら火花を散らしている。
そしてそんなロシアの隣ではゴウリーが太い腕を組んでムッスりし、そのゴウリーの後ろに座っているのが眉を申し訳無さそうに下げている菊と菊の膝の上で菊の豊満な胸を枕にふんぞり返って座る偉そうな幼子。
そんな中更に異質なのはレトロなカメラを構え、日本と菊を写真に納めるのに忙しい秘書A。菊にカメラとボイスレコーダーを傾けるゴースト達の異常な姿。
何とも字面で表しただけでも疲れるメンバー。
何故床に鎮座しているのかと言うと、あの後ドイツが声を響かせても席に着こうとしなかった為、ドイツの物理的な実力行使が成された背景がある。
ドイツは頭痛薬を水で流し込みながら頭痛を誤魔化し、問題解決の糸口を探った。
「あー、それで本題だが、菊達を向こうの世界に戻すにはどうするかだ」
「えー!戻ってしまわれるのですか!?」
ドイツの顬に筋が走る。本題に横槍を入れやがって…!と声を発した秘書Aを鋭く睨んだ。
ドイツの睨みなどいつもなら青ざめてしまうだろうに、今は全く効果がない。
秘書Aの生き甲斐と言っても過言ではない日本と瓜二つの菊。しかも女体だ。一目で二倍美味しい。こんな楽園の様な光景を崩壊させるなんて考えもしなかったのだ。
「祖国と菊さんのウハウハパラダイスなんですよ?え?誰のパラダイスかって?私のですよ!このパラダイスを守る為なら魔王にだって抗ってみせます!!」
フンッと鼻息を鳴らす秘書Aに賛同する者なんて居ない。賛同するどころかドン引きだ。
「……あんた、つくづく思うけど筋後寝入りのド変態よね」
「え?…それって褒めてます?」
ゴウリーの呆れた様な台詞に何故か嬉々とした秘書A。最早、何も言うまい。
「…話を元に戻す。意見がある場合のみ挙手して稔のある発言をする様に。脱線しそうな話題をした者は問答無用で、退席だ」
言葉に圧をかけるドイツに意見する者はもう居ないだろうと思われていたが、スッと長い腕を伸ばして発言の許可を待つ者が居た。
「…ロシアか。発言内容を簡潔に述べてくれ」
「うん。さっきから黙ってるみたいだけど、イギリス君の見解はどうなの?」
ロシアの発言に皆がハッとした様にイギリスに意識を向けた。
騒ぎの中心に居るような常連が今の今まで静観しているなんて、明日は季節外れの雪が降るかもしれない。
一斉に注目を浴びたイギリスは一瞬虚をつかれた様に目を丸くしたが、小さく咳払いをして身形を整えると太い眉を顰めた。
「べ、別に黙ってた訳じゃない。ちゃんと考えていたんだ」
「What's !?君が?ちゃんと考えてただって?面白いジョークじゃないか!」
アメリカの意外だと言うような態度に若干イラッとしながらもイギリスは鼻を鳴らして腕を組んだ。
「……、ジョークじゃない。菊達が向こうに帰る為の方法を考えていただけだ」
他に何があるというのだ?と言った風情でイギリスが片眉を上げればアメリカは面白く無さそうに膝の上で頬杖をついた。
「ふーん。それで?方法とやらはあったのかい?」
「何言ってるのアメリカ君。イギリス君が無駄に考える事なんて沢山あるけど、今の状況は元々イギリス君と向こうのイギリス君が元凶なんだから尻拭いぐらいは自分でやらないと面目も立たないんだよ?尻拭いも出来ないなんて嘗ての大英帝国の名折れじゃないか」
「そうだった!イギリスが元凶じゃないか!不味いスコーンばっかり俺に食わせないで何か役に立つ事でもやってくれなきゃね!」
「…ぐっ」
なんでこんな時ばっかり春待ち組は仲良くなるんだ!?とイギリスは歯軋りしながら目の前で嫌な笑みを浮かべるロシアとアメリカを睨んだ。
「…チッ。まあ良い。1つ気になる事がある。俺は数ヶ月前の(あくまで)事故で日本の秘書とゴリ…あのSPを異世界に飛ばした」
あくまで事故だと強調するイギリスにアメリカの眼差しが呆れたように半眼になるが、アメリカよりも過敏に反応した者がいる。
「んもう!!やだダーリン!アタシはゴリラでもSPでも無くて貴方だけのゴウリーちゃんよ!!あっ!ダーリンがどうしてもって言うならダーリンだけのSPになっちゃうけど!アタシの身も心も全部ダーリンだけの物なんだからね!」
「ーーッ!!」
バチコーンとウィンクを飛ばすゴウリーを何とかスルーしてイギリスは鳥肌のたつ己の腕を摩る。
「君、今から弁明でもするつもりかい?」
そこで漸く口を挟めたアメリカの言葉にイギリスは「いや、」と真面目に否定した。
「俺がやったのは転送だ。だが、彼奴らがここに来たのは転送とは少し違う…妙な力を感じた。恐らく、召喚魔法に分類される物だろうな」
その見解に今まで拗ねていたプロイセンが目を丸くする。
「あ?転送魔法と召喚魔法…?って事はだ、召喚には対価があったって事だよな?」
「ああ。転送に対価は必要ない。一方的な物だからな。だが、召喚魔法は違う。いやこの場合喚起魔術…と言うべきか。何らかの方法を用いて対象の位置を特定し、それ相応の対価を元に魔術が成立するんだ」
「ま、魔術……だと?」
イギリスの説明にドイツは頭の整理が追いつかないで疑問符ばかりが頭上を飛び交う。
魔術の類には精通していない日本も訳が分からないと首を傾げた。そんな日本とドイツにイギリスは頭を搔くと「つまりだな…」と噛み砕いた説明をする。
「……上手く説明するのが難しいが、種々の霊的存在(精霊)を呼び出す技法が今や世界中の書籍で知られていると思うが、それらの諸技法を召喚、召喚術、召喚魔術などと呼ぶことがあるんだ。場合によっては悪魔召喚ともいう。近世のグリモワール『ゴエティア』に基づく魔術作業は、典型的な喚起魔術であるとされ、魔術師は地に描いた魔法円の中に身を置き、円外に配置された魔法三角の中にデーモンを呼び出す。呼び出されたモノはユダヤ・キリスト教の神の威光を借りた魔術師の命令に服する…。な、筈なんだがな…」
渋い顔をしたイギリスはキョトンと首を傾げる菊と何故かニヨニヨと態度のデカい子供を見遣る。
どう見ても命令に服するなんて雰囲気は塵ほども感じない。むしろあの子供は見下した態度が板についている。
どう見ても服する気なんて毛頭ないだろう。
「……菊達が単なる転送魔法だったとして、そこのガキがココに来たのは喚起魔法じゃないかと思っていたんだが、一体どうなってるんだ?」
「もう!君の説明は解りにくいんだよ!」
アメリカが頭を抑え、天井に向かい吠える。
「〜ッ俺だって分からねえんだよ!fuc〇!!」
イライラを隠しもせずに今度はイギリスが吠えた。
「ま、待て、落ち着いて整理しよう」
また脱線していきそうな状況にドイツが待ったをかけた事で、イギリスは配られたペットボトルの炭酸水を飲んだ。
「……はぁ。端的に言って俺がやった転送魔法ってのは対価が要らない代わりに適当な世界線を通って未知の世界に飛ばせられるんだ。そこに術者の強い意志が無い。要するに適当だ」
この場にフランスが居たら「そんな適当な世界にお兄さんを飛ばそうとしてた訳!?何この子怖い!!」と騒いでいただろうに、今は居なくて良かったと日本は思った。
「で、召喚魔法ってのは、術者が対価を元に呼び寄せる……目の前に召喚する魔法だ。召喚魔法は多岐に渡る逸話があるが、対価を必要とするのは共通している。だが、こちら側が召喚してもいないのに召喚されたというのが謎なんだ。となると、召喚魔法に何か特殊な詠唱か陣が加わっている特異な召喚魔法だろう。俺の使う単なる転送魔法じゃ帰してやるのが難しい」
「……よく分からないが、要約するとイギリスの知り得ない魔法か何かがあって、あの子供と日本の秘書達が飛ばされた…と?」
ドイツは眉間の皺を深く刻みながら絞り出すように考察を端的に纏めた。
「癪ではあるがな。相当な術者が向こうに存在している様だ」
むぅ……と唸るイギリスに今度はロシアが何でもない事の様に口を開いた。
「ねぇ、イギリス君は随分自分の事を過大評価するんだね?」
「ッ!?ンだとコラ!!」
「え?なぁに?」
ロシアに海賊時代を彷彿とさせる口調と表情で食ってかかるイギリスだが、ロシアの絶対零度の笑みにスンと黙り込んだ。
「だって、君は魔法に精通しているんだろうけど単なる国の化身で魔法なんて信じない人の方が多い世界に住んでる。向こうは本場の魔界なんでしょ?だったら国の化身如きが魔界の専売特許の様な魔術になんて太刀打ち出来る訳ないじゃない?知らない魔術や方法があっても不思議じゃないよね」
「……」
ド正論である。
ロシアに反論する事も出来ないイギリスを横にアメリカが「お腹空いたんだゾ」とKY発言で重い空気を取り払った。
「……仕方ない。アメリカは何か食べに行ってくると良い。寧ろ、この件に関係していない者や明日の予定が早い者は引き上げてくれて構わない。どうなったかの結果は明日の午後からの会議で話すとしよう」
「それもそうだな!よし!この件で関係のある奴だけ残れ」
ドイツの提案にプロイセンが賛同し、関係のある奴は…とドイツに目配せすればドイツは承知したとばかりに頷いた。
「先ず、開催国である俺が責任と権限がある者として残ろう。後は、魔法の類に詳しいイギリスとロシア、兄貴、それに菊が安心するだろうから日本、すまないが力を貸して欲しい。当事者である菊とそこの子供、あとは……アレは…?ゴースト…?……と、まあ以上名前の呼ばれなかった者は各々好きにしてくれ」
ドイツが厳格な態度で宣言すればズザッと目の前に影が現れた。
「なっ!?」
唐突に目の前になんて、今ハマっている日本文化の1つ、あのカッコイイ忍者だろうか?心躍るドイツ。ワクワクする気持ちを抑えきれずにドイツの頬に紅が刺している。
「ちょっとお待ち下さい!!!」
「異議ありよドイツちゃん!!!」
「……」
残念。忍者じゃない。変態だった。
ドイツの心底ガッカリした気持ちなんて無視して自他共に認める変態は捲し立ててくる。
「なんで!!なんで私は当事者に数えられていなあのですか!?こんなにも祖国に尽くし、あっちの世界にも行って菊様に尽くしてたんですよ!?関係ない事無いじゃないですか!!!」
「酷いわドイツちゃん!!アタシはダーリンの傍にいたいの!!片時も離れたくないわ!!何故だか分かる!?向こうの世界のダーリンとは愛を深める事が出来たけど、こっちのダーリンとはまだ何も進展してないの!!アタシはね!向こうのダーリンと結婚の約束までしてたフィアンセなのよ!?結婚式目前にコッチに戻された悲劇のヒロインなの!!でもね!それはこっちのダーリンが呼び寄せたってんならアタシはこっちのダーリンと結ばれる運命にあったって事でしょ!?今が大事なの!1分1秒とも離れたくないの!!この乙女心が分かるでしょドイツちゃん!!!」
「なんて烏滸がましいんですか貴方!!私だって祖国に逢いたくて逢いたくて震えるぐらい待ち焦がれてたんですよ!?あんなに一緒だったのに!!片時も離れたくないのは私の方です!!」
「はぁあ!?アンタ菊ちゃんにデロデロのメロメロだったじゃない!後を追い掛け回して盗撮してたの知ってんのよ!!この浮ついたド変態が!!あと所々フレーズパクってんじゃないわよ!!懐かしいじゃない!!!」
「黙って聞いてれば……ッ!浮ついたド変態ですって!?ド変態とか褒めてんですか!?有難う御座います!!」
「〜ッ喧しいわ!!失せろ!!!」
「ひぃ!!」
ガッと吠えたドイツに言い争っていた秘書Aとゴウリーの勢いが削がれてしまう。いつも以上に憤怒の形相を浮かべて吠えるドイツが怖い。

そんな3人を前にイギリスは固まっていたが、ゴウリーの言葉の反復を何度か繰り返した。

「…婚約?結婚式目前???向こうの俺がか?あのゴリラと?…何のジョークだ。はは…いやいや……。いやいやいやいやいやいや!!!ねえよ!!!!」
手にしていたペットボトルがグシャァアとイギリスの握力によって無残な姿に変わる。
「うふふ。結婚式だって!僕も見てみたかったなぁ。イギリス君惜しかったね」
「向こうのお前すげぇな…ッ!おもしれぇ!!」
口々にイギリスを嘲るロシアとプロイセンにイギリスがギロッと眼光鋭く睨みつけたところで、今度はポソりと「イ、イギリスさん、十人十色。趣向は人それぞれと申しますし…」と日本に変に気遣われてしまった。
「…ッ」
ショックから言葉を失ったイギリス。
「おい。しんぱいしなくてもじぶんでかえれるぜ」
そこへ聞き慣れぬ声のトーンが少しばかり威圧感を持って空気を震わせた。
それぞれが声の主へと視線を向ければ、偉そうに菊の柔らかな膝の上でふんぞり返る子供の姿。
「自分で?そりゃどういう意味だ?」
プロイセンが訝しむように問えば、子供はプロイセンに良く似た顔でニヨリと笑み、ピョンと菊の膝から床へと飛び降りる。
「ことばどおりだ。な、きく」
「はい。大変お騒がせして誠に恐縮ではございますが、此方に居りますゴースト達が転送魔法を得意としておりまして」
菊の説明に自前のカメラの映像を確認していた黄色とオレンジ色のゴーストが此方を振り返った。
日本を視界に入れて頬を染めたオレンジ色のゴーストとプロイセンを視界に入れてニヤリとした黄色のゴーストはスルーしておく。きっと碌でもない事を考えているに違い無い。
ゴースト達に構わず菊は化身達に向き直ると「実は……」と話を続ける。
「どうやら彼等の話によりますと、秘書さんとギルさんをココに召喚したのは向こうの知り合いの術者でして、ゴースト達は気配を辿って秘書さん達を追い掛け、一緒にここまで来たと言う事です」
菊の説明にゴースト達はドヤ顔でふんぞり返った。
「…は?いやいや、ちょっと待て。気配を辿って追い掛けて来た?この丸いだけの…《バシン!》…ッンゴ!?」
イギリスは引き攣る頬をそのままにゴースト達を指差して聞き返したが、オレンジ色のゴーストにプラカードで頭をぶん殴られた。
「わぁ良い音〜」
「ンゴ!って何だよ!ケセセセセセ!腹痛てぇ!!」
ロシアとプロイセンは叩かれた衝撃でフラつくイギリスの有様を笑う。
ハゲの持つプラカードには《指刺してんじゃねぇよ。へし折るぞ》とポップ調の可愛らしい文字で恐ろしい文言が綴られている。
このゴースト、口より先に手が出る典型的なタイプだ。
「〜ッ痛えな!!何しやがんだfuc〇you!!!」
涙目のイギリスがオレンジ色のゴーストに中指を立てながら怒鳴るのと同時に背後からドドドドと轟音が聞こえてきた。
振り返ろうとするイギリスの視界の端でファイティングポーズをとるオレンジ色のゴーストと数メートル距離をとるロシア、プロイセン、日本。
スドドドドドという地響きを体感しながらイギリスは振り返った事を後悔した。
「おんどりゃァァァァ!!!!」
「ぎぁああああああああああああ!!!!」
此方に筋肉ダルマが鬼の形相で迫って来ていたのだ。イギリスは恐怖から絶叫しながら人生で中々感じる事の無い恐怖を覚えた。
そんな頭の片隅では『なんで此奴らが距離とったのかと思ったらコレだったのか!!ってか何で日本まで無表情で距離とってんだよ!?普通相棒だったら助けるだろうが!!巫山戯んなバカァァァ!!』と盛大に嘆いている。
咄嗟にその場で屈みこんだイギリスの頭上をズオッと飛び越えて行く筋肉ダルマ…もとい怒り狂うゴウリーはオレンジ色のゴースト…もといハゲに向かって殴りかかって行く。
だが、ハゲも負けてはいない。プラカードを黄色のゴースト…もといザコに預けると目を吊り上げて威嚇した。
「ダーリンに何しとんじゃい!!お前フルーツポンチに混ぜたろかボケェエエ工!!!」
「フシューーーーッ!!!!」
ゴウリーのオネェ言葉は也を潜め、本来の野太い声音で拳を振りかぶったそのデカい拳をスゥっと受け流すハゲ。
ゴウリーの巨体が僅かにぐらついた隙を狙い、ハゲはゴウリーの懐に飛び込むと、ゴウリーの鼻の穴目掛けて両手で指サックならぬ腕サックをキメた。
「ンゴォオオオ!?!?」
可愛らしい見た目を裏切るハゲのエグい攻撃に周りの者はドン引きである。
だが、ゴウリーも負けていない。浮いていた片足を振り上げてハゲの脳天目掛けてカカト落としを繰り出した。
なんて柔軟性なんだろうと思わずゴウリーの身体能力に感嘆してしまう。
しかしながらハゲはゴースト。自分を透過する事が可能である。
ゴウリーの踵は強かに床にヒット。タイル張りの床にヒビが入った。
「〜ッ乙女の美顔に何さらしとんじゃコラ!!なめんじゃねぇぞクソがぁああ!!!」
「フシャーーーーッ【上等だ!かかってこいゲテモノが】!!!!!」
赤いドレスに見合わず、身体中の血管を浮き上がらせて憤怒するゴリ…、ゴウリーと猫又妖怪を思わせる形相で威嚇したハゲ。
両者はそのままお互いの拳を打ち合わせると、衝撃音を上げながらドラゴン〇ールの様な戦闘へと発展していった。
「と、言う経緯がございました」
カオスな状態を見なかった事にして、良い笑顔で締めくくろうとする菊に思わずその場にいた全員がツッコミを入れた。
「何がだ!?勝手に終わらせようとか無理あり過ぎんだろ!」
プロイセンが声を大にして菊を指差す。
「しかし、気配を辿ってくるなんて…そんな事可能なんでしょうか?」
まるで先程の事が無かったかのように、日本も話を強引に軌道修正してくる。それにプロイセンが物言いたげな顔で日本を見つめるも「プロイセン君も真面目に考えて下さい」と言わる始末。
「え?何だコレ。俺様が可笑しいの?」
ポツリと呟くプロイセン。常識人を探して頼みの弟に半ば呆然とした視線を送る。
「兄貴、邪魔するなら帰ってもらって構わない。人員は足りている」
その頼みの弟から溜息混じりに辛辣な言葉を賜わってしまった彼は膝から崩れ落ちた。
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