天界には天使。魔界には悪魔が居るという極ありふれたそんな世界。

俺はその天界に産まれた天使に属する。
髪も肌も白に近い。だが、1つだけ忌み嫌われる要素があった。それは瞳の色だ。瞳だけは血の色だと揶揄され、悪意ある者からは魔界の者だと嘲られた。
天界の天使がみんな揃って性格の良い奴ばかりじゃ無い。性悪がゴロゴロといやがる。外面は天使だが中身は悪魔だ。
上級天使だろうが下級天使だろうが、感情という物を持っている時点で人間と変わらねえ低俗だ。
そんな俺もその内の1人だった。

「あーあ、つまんねぇ。1人楽し過ぎるぜ」
俺は1人で現世の空中に浮いている。
何故現世で浮いてるかって?
追放だとよ。天界からの永久追放。
理由は簡単だ。俺を目の敵にするヤツが俺の目の前で可愛い弟のルッツを虐めたんだ。虐めたなんて可愛らしい言い方だが、内容はエグい。数人で寄ってたかってのリンチに加えて、ルッツの服を引き裂いて公衆の面前で晒し者にしようとしやがったんだ。マジ許せねえ。
俺は怒りに任せて、そいつ等を力一杯殴り飛ばした。我を忘れていた所為か拳を鋼鉄に変質させてな。
当然殴り飛ばしたヤツの顔面はへしゃげたぜ。右頬骨が見事粉砕した。
騒ぎを聞きつけた上級天使達に捕まって、殴ってやった奴の親が天界の偉いさんでよ…キーキー金切り声で俺を罵ってきやがって、腹立つから「黙れブタ」って言い返したら問答無用で天界裁判が開かれた。
何もかも順序をすっ飛ばしてだぜ?私情でそんなんアリかよ?
でも、能力を使って同族を攻撃するのは禁忌だとされていたから裁判までになんのは仕方ねえけど。
ってか、あのブタ共が同族だと思うだけで反吐が出るぜ。
元々、忌み嫌われていた俺は、全会一致で永久追放が可決された。要はさっさと天界から出て行け、2度と現れんなって事だな。此処は本当に天界かよ?本で読んだご都合主義な魔界みたいに思えてくるぜ。

俺には、家族といっても両親は居ない様な物だ。俺からしたら両親は人形だぜ。天使も悪魔も見た目がある一定の外見で成長が止まる。両親の見た目は今の俺とそう変わらねえ。正直その見た目は気味が悪い。見た目は若いのに、1000歳越えてんだ。神の手によって消滅しない限り、若い頃の容姿そのままだ。
彼奴ら夫婦は、俺の赤い目が忌み子だと怖れた。産まれてから700年、一度たりとも俺に愛情を向けた事など無い。生き辛い暮らしだった。死を迎える事が無い。死の概念の無い俺は此処が生き地獄だと思った。誰もが俺を遠巻きに蔑む。くだらねぇ。
俺が産まれて500年後には、弟が産まれた。金髪に青い目。天使の容姿そのままに産まれたから、両親は弟をそれはそれは可愛がった。俺が居ない者とされるのは早かったぜ。別に悔しいとか悲しいなんてのは無かった。過ごした年月が500年だ。愛情なんてもん今更必要ねえし。
ただ弟が幸せに暮らせるならそれで良い。
追放を機に俺様の純白だった翼は斑らなグレーに染まった。これから時を重ねるにつれ、黒一色に染まるそうだ。堕落の印。
所謂堕天使となったのだ。

追放の門には弟だけが来てくれた。
泣きながら引き留めて来るのを笑顔で頭を撫でてやった。
この場に弟を置いて行く事に不安な気持ちになるが、俺と違ってルッツには愛してくれる両親が居る。
だから、きっと大丈夫だ。
「いつかまた会えるだろ、そんな泣くなよ。強くなれ!お前は俺様の自慢なんだ…誇りなんだ…、ありがとなルッツ!!」
弟を抱き締めてから身体を離すと、そのまま振り返らずに門から現世へと飛び降りた。

天界にも理不尽な事が存在する。
魔界と何が違うんだ?
汚くなった翼を広げながら疑問を零した。

そして今に至る訳だ。

さて、これからどうすっかな?
現世で暮らすっつっても、生きる時間軸が人間とは違う。直ぐに人間じゃ無えってばれちまうよなぁ。人間は異形の者に対してエゲツない程の拒否反応を示す。
正直なところ、関係を築いて壊して、また築いてってのは、至極めんどくせえ。
俺の視線の先には教会を中心にレンガで建てられた家々が見える。
歩いてる人間は誰一人空なんか見上げねえ。
馬車が走り、人々は街の中を無関心に歩いている。
人間というのは退屈な生き物だな。と俺は空から興味無さげに呟いた。
路地裏には孤児やホームレスが溢れていた。路地裏と大通りでは貧富の差が大き過ぎる。そんな下界の様子を見ていて少しだけ切なくなった。
ふと教会の裏手から黒いキャソックを着た男が2人出て来るのが見える。
その先には黒い人影。男か女かは今の位置からは分からないが、纏う雰囲気が人間では無かった。
俺は好奇心が疼き、教会の屋根からその3人を観察する事にした。

「ヴェ〜、兄ちゃん俺疲れたよ〜」
「うるせえな!俺だって早く休みてえよ!文句言うな!バカ弟め!」
「ふふ、相変わらずですね?お勤めご苦労様です」
木の陰から現れたのは、黒髪黒目の綺麗な男だった。
一見女にも見えたが声音が艶っぽいテノールだったから男だと思う。
俺は興味津々に3人を観察した。
黒いキャソックの男はチギ!と鳴く。焦茶の髪色にクルンが揺れ、オリーブ色の瞳だ。
その男とは反対にヴェ〜と鳴いたのは茶髪に同じ様なクルン、ブラウンの瞳の男だった。
三者三様中性的な顔立ちをしているな。
俺がジッと観察していると、不意に黒髪が顔を上げて俺様を見た。
やべっ!と思った時には黒髪が視界から消え、音も無く俺の背後に現れた。
「!?」
「こんにちわ。お散歩ですか?良い天気ですからねぇ? ところで、…私達に何か御用でも?」
黒髪の男は俺の背後に立って、うっそりと笑ってる。
何だ?こいつ。人間じゃ無えのはわかった。
「よう。良く気付いたな。まぁ散歩だよ、暇だからな」
俺は慎重に振り返って、黒髪を真っ直ぐ見つめて答えると黒髪は驚いた様に目を見開いた。
「…これは、驚きました。赤目の天使さんとは初見ですよ。光栄です」
恭しく頭を下げた黒髪に思わず眉間の皺が寄った。
俺の目の色を揶揄ってんのか?お前も彼奴ら天使と同じかよ。何処に行っても俺の赤目は忌み嫌われるんだな。
「そうかよ。血の色で気味悪いって言いてえんだろ?正直に言えよ。そんなの今更慣れてんだよ」
苛立ちに任せて黒髪を鋭く睨みつけた。
「おやおや、確かに血の色とも言えますが、気味悪いだなんて、卑下し過ぎでしょう?血の色とは生命の証では?私には貴方の瞳が宝石の様に輝いて見えます。決して手に入らない宝石です。この世にただ1つの。そんな宝石を目に持つ貴方が羨ましいです。…ずっと見ていたいそんな魅力的な色です」
嘘偽りない様に黒髪は俺の目をジッと見つめてくる。
今まで言われた事の無い言葉の数々に俺は顔から火が出てんじゃ無えかってぐらいに赤面した。
何だよ!コイツ…
俺の様子に黒髪はカラカラと笑い声を上げた。
クソ!俺を揶揄って遊んでやがるっ!
悔しくて睨んでやると、黒髪は「失礼しました」と口元を隠して謝った。その手の下ではまだ唇が三日月の様に象っているのが分かる。クソ!
「で?お前は何者だよ!」
「気付きませんでしたか。初めまして、私は悪魔。名を菊と申します」
は?悪魔…?
「…お前、悪魔なのか?」
「ええ、そう申しましたよ。ウサギの様な天使さん?…あぁ、失礼しました。ウサギの様な堕天使さん」
余裕そうに俺を見る菊に吠えた。
しかもだ、俺様が堕天使だってのも見抜いてやがる。
「ウサギの様なってのは要らねえ!喧嘩売ってんのか!?俺様はギルベルトだ!覚えとけ!」
「はい。ギルベルト君。初めまして」
何だか馬鹿にされている気がする…!
こいつの余裕ぶった顔をどうにかしてやりてえ!元々加虐性を持っている俺が余裕ぶった相手に見下されるのが一番気に入らねえ!
グラグラと怒りが湧いて来た所で下から声が掛かった。
「おーい!菊ー!どうしたのさあー!」
「早く降りて来いよ!俺は早く帰ってシエスタしてぇんだよ!このヤロー!」
下にいた男2人が黒髪、菊を呼び寄せる。
「はーい!今行きますよー!」
「は?…ぅおおおおお!?」
菊は下に向けて声をあげると俺のカッコイイ首根っこを掴んで屋根から飛び降りた。
こいつ…ッ!
突然過ぎだろ!巫山戯んな!マジで!
落ちる視界の中、黒い翼が見えた。
あー、やっぱコイツ悪魔だったんだな。菊の広げた翼は漆黒だった。俺の斑な汚い羽色と違う。光に照らされて艶々と黒光りする羽は美しいと素直に思えた。
地面に衝突する事なく、俺の首根っこを掴んで持ち上げた体制の菊はそっと地面に足を着けると、俺を地面に降ろした、いや、わざと落とした。
「いっ…てえ!〜ッお前もっと配慮ってもんがあんだろうが!?」
尻餅をついたケツが痛い。菊に向けて怒鳴りつけるが「あらあらすみません」と棒読みで謝罪ともつかぬ謝罪を述べやがった。マジでコイツ一回泣かす!
男2人は俺達を驚いた様に見ていたが人が来ると言われ、足早にその場を去った。
しかも俺は何故か菊に手首をギリギリ掴まれて走らされている。
こいつの馬鹿力は悪魔だからか?絶対痣出来る!後で文句付けてやる!

目の前を走る小柄な黒髪、菊を睨んで胸中で零した。



大きな屋敷に連れ込まれ、ようやく応接間らしき部屋で解放された。案の定俺の手首には菊の指の型がついていた。睨んでやると菊は気にした素振りも見せずに、男2人に続いて対面のソファに腰掛けやがる。
早く座れと促されて、しぶしぶながらも菊の隣に座った。
とりあえず自己紹介だね!と言われ自己紹介を受けた。目付きの悪いツンツンした方がロヴィーノ。ホワホワとした柔らかい雰囲気がフェリシアーノと名乗る。2人とも人間では無く、吸血鬼と人間のハーフだと言う。
人間とのハーフだという事で、血を必要とせず、人間と同じ物を食べて飲むだけで生き長らえられるそうだ。
(因みに、天使と悪魔は1日1回少量の食物を摂取すれば身体機能が活発に働く)
2人の兄弟は、空を飛べないので翼を広げて空を飛ぶ菊とギルベルトが羨ましいと語った。
俺は、吸血鬼のハーフに会うのも初めてだ。見た目は普通の人間と変わらない。

2人の自己紹介が終わると今度は自分の自己紹介を始めた。
恐らくだが、こいつらは人間より信用出来る。嫌な感情の色が見えないのだ。天使の方が嫌な色をしていた。こいつらは弟と同じ様な暖かい色を持っている。淡い黄色の様な陽だまりの雰囲気だ。
吸血鬼と悪魔相手に不思議な話だが。

「へぇ〜!ギルベルトは元々天使で今は堕天使なんだね!追放されちゃったけど」
「ケッ!見た目は天使じゃ無えけど、一応は元々天使なんだな!堕天使が似合ってるぜ!追放されたけどな」
「お二人共、追放された等と強調して言っては可哀想ですよ?追放されたばかりですからね?ギルベルト君が傷付きます。ごめんなさいね、この子達に悪気は無いんです。追放された堕天使のギルベルト君」
俺は顳顬の筋がピクピクと疼くのを感じながら、隣に座る菊にアイアンクローをかましてやる。
「てめぇら!揃いも揃って追放されたって言い過ぎだろうが!菊が一番言ってんだよ!この悪魔が!泣け!このヤロ!」
ギリギリと小さな頭に力を込めるが、菊は余裕そうにしながら「痛いです。暴力反対です」と宣う。
絶対痛く無えだろ!

「菊可哀想!…大丈夫?」
「あぁ…、追放された堕天使のおかげでお花畑が見えた気がしましたね」
「チギーッ!この追放された堕天使め!ジジイに何してくれてんだよ!?」
「追放された堕天使!菊はお爺ちゃんなんだから大事にしてあげて!」
こいつらまだ追放された堕天使と呼ぶか…!もう名前みたいになってねぇ?
「だあから!俺様はギルベルト・バイルシュミットっつー小鳥カッコイイ名前があんだよ!」
隣に座る菊の頭を叩いて講義する。
菊の頭はスパーンと良い音がした。
目の前の兄弟は顔を蒼褪めて「年寄りを大事にしろ!」と喚きだした。
「コイツの何処がジジイなんだよ?子供みてぇじゃねえか」
菊は見た目で言えば目の前の兄弟より幼い。人間で言えば20にも満たない未成年だ。絶対俺より歳下だろう。
「ふふ、美魔女ならぬ美悪魔でしょうかね?こう見えても今年900歳をとうとう越えてしまいましたよ?ジジイといっても魔界ではまだまだ若輩者ですが」

…え?は?ええええええええ!?

「おまっ!ええ!?嘘だろ!!俺様より200歳も年上かよ!?信じらんねぇ!」
「おや、ギルベルト君は700歳でしたか」
「ヴェ!?ギルベルトは700歳なの!?」
「こっちもこっちでジジイじゃねぇかよ!」
ジジイって…。そう言われると、ちょっとヘコむぜ。
「まぁ、菊は俺様より200歳も年上だったら、ジジイだよな」
「では殊更優しく扱って頂きたいものですね」
「あ?ジジイの皮肉が隠居したら考えてやるぜー」
微笑む菊に向けて挑発的に笑みを返してやる。
「ヴェ〜、これじゃあギルベルトの方が悪魔に見えてくるねえ」
「そうだな。あんな人相の堕天使…そもそも天使って名前付けたらダメな気がするぜ……」
俺の人相が悪いのは今に始まった事ではない。慣れてる。
それよりも俺は気になってる事をやっと質問した。
「で?お前らは、この屋敷に住んでんだろ?現世に悪魔と吸血鬼が揃って何の仕事だよ?隠居生活って訳でも無さそうだしよ」
あっけらかんと答えたのはフェリシアーノだ。
「ヴェ?俺達は血の契約の元、お仕事してるんだよ?知らない?」
「は?血の契約?仕事??」
「そう!まあ、平たく言うと人間のマフィアみたいなものだよ!俺達は血の契約をして、シマを荒らすモンスターを粛清してるんだー。このお仕事ももう300年になるのかな?」
血の契約?マフィア?粛清だ??何だそれ???
疑問符が頭に浮かび、若干のパニックに陥っていた。そこでフェリシアーノの大雑把な説明に対してか、俺様の理解力の無さに対してか分からないが、面倒だという体でロヴィーノが声を荒らげた。
「要するにだ!俺達は縄張りを荒らす奴から街を守って、街から護衛費を得て生活してんだよ。街の人間達は俺達が吸血鬼だって事は知らねえな。祓魔師みてぇな?あー、エクソシスム?の類だと思ってるんだ。姿形が変わらねーのを不思議に思わねえのも、夜になると定期的に記憶を菊が操作してんだ。俺達に対する容姿の意識は常に若いままだ。不思議に思う事もない。考え至る前に菊が記憶を操作してるからな!だから俺達は今まで300年をこの街で生活できてる」
記憶を操作してりゃ、300年も同じ場所で生活出来るってもんだよな。
「ところで、ギルベルト君、天界を追放されたのでしょう?これから何処に行くのか、あてはあるのですか?」
そうだった。俺様これから先1人楽しく生きてく場所を探さなきゃなんねぇんだ。
「あー、どうするかまだ決めてねえしよ。どうしたら良いのかも分かんねぇ」
ポリポリと頬を掻きながら、どうするか途方にくれた。
「ロヴィーノ君、フェリシアーノ君。彼はどうでしょう?私達の中に天使とは異色ではありますが、堕天使ならば馴染める筈ですよ。彼の様な種族もまた貴重です。必ずや戦力となるでしょう」
「ヴェ!そうだね!菊が言うなら大丈夫だよね!兄ちゃん!」
「…分かった。確かに今は戦力が欲しい。その代わりちゃんと菊が面倒見ろよ!この世界のルールと血の契約についてもちゃんと教えておけ」
あれよあれよと言う間に、俺の今後がこの悪魔と吸血鬼達によって決められていく。本人の意志は関係無い様だ。まあ此処に置いて貰えるのならば都合が良い。
「と言う訳で、お前は今日から俺達ヴァルガスファミリーの一員だ。血の契約をするぞ」
菊がロヴィーノからの目配せに頷くと、パチンと指を鳴らす。菊の指が大きな炎でボンッと一瞬だけ燃える。驚いていると菊の手には束になった古い羊皮紙がある。
羊皮紙にはツラツラと文字が書き込まれていた。どれも名前の様だ。
「ここに、自分の血で名前を書き込め」
ロヴィーノはナイフを手渡してきたので、それを受け取り指に刺すと血が溢れて滴る。
一番下のスペースにGilbert Beilschmidtと記入した。
「よし、これで契約は完了だ。これからの事は全部菊に一任する。ギルベルトは菊の指示に従え」
名前を書き込むだけで契約が完了とは簡単過ぎやしないか?と疑問に思うも、ロヴィーノに分かったと頷いておく。
「ヴェ〜!よろしくね!ギルベルト!」
フェリシアーノちゃんが可愛らしい笑顔を見せてくれた。
「ちゃんと働けよ」
ツンとしながらも、頬はほんのり赤いロヴィーノは可愛い。
「では、これからよろしくお願いしますギルベルト君。しばらくは私の教育指導ですからね。下に付いてもらいますよ?下に」
菊の顔は可愛いが、性格は狸ジジイだと思う。「下に」を強調しやがって…!
コイツいつか絶対泣かす!

俺は吸血鬼の兄弟と悪魔の上司と共同生活をする事になってしまった。
街に無断でやって来て暴れるモンスターを片っ端から倒しゃあ良いんだろ?殴ったり、暴れるのは寧ろ得意分野だ。

「何してるんです!追放された堕天使さん!置いて行きますよ?」
前を歩いていた菊がいつの間にか遠くから俺を呼んでいた。
いやいや、今小鳥カッコ良くキメてたのに台無しじゃねぇか!何してくれてんだよ!クソジジイ!
「うっせえな!俺様はギルベルトだっつーの!いい加減覚えろよ!クソジジイ!」
「おやまぁ。ジジイにクソを付けないでください。お下品ですよ?」
突然耳元に聞こえた声にピャッと驚いた。
そんな俺を見てジジイは至極楽しそうにクスクスと笑う。このやろぉ…!
「ふふ、失礼しました。さ、先ずは貴方のお部屋を紹介しますので、ちゃんと付いて来てくださいね、その後説明しなければならない事がありますので、急いで下さい」
それだけ言うと菊はスタスタと長い廊下を進みだした。
慌てて後を追いかける。
「待てよ!クソジジイ!」
「クソはおやめなさい!不憫君」
「不憫!?不憫って何だよ名前じゃねえだろうが!」
新たな呼び名は不名誉な不憫だった。巫山戯んなクソジジイ…!
「貴方は本当に煩い犬ですねぇ」
はぁ。と溜め息を吐く菊の頭をスパーンと叩く。やっぱり良い音だ。
「老人虐待ですよ?」
大して痛くも無さそうな顔で老人虐待だと言う菊にニヨリと笑みを浮かべた。少なからず胸がスッとした。

ずっと1人でいた俺には、こいつらを友達だとかの区分に当て嵌めて良いのか分からねえけど、会って数時間しか経って無い相手に不思議とあったけえ気持ちが湧いた。

天界よりも心地良いこの場所が俺のこれからの新しい住処だ。
俺が必要だってんなら、此処に居るのも吝かでは無い。
今の感情はウキウキとした心地に近い。
共同生活の始まりだ。
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